「踊るで、しかし」は、毎月第3木曜日にニューヨークで発行される読者参加型のフリーペーパーです
2001年9月の創刊から10〜40代に絶大な人気を誇るお笑い系フリーペーパーとしてNY在住日本人に認知されています。
ライター陣は政治家、お笑い芸人から構成作家までと幅広く、イラスト入り「NY人間図鑑」はNY日本人社会を反映させていると大人気。
毎月開催するクラブイベント情報も掲載中です。

境セイキ=NYで6年間のホームレス生活を経た筆者が綴る達観的コラム=

大学中退後、福岡で古着屋を営み21年前に渡米。6年間のサラリーマン生活を経てNYで商社設立するも4年後に廃業。6年間をホームレスとして過ごす。現在は本人にもよくわからない不思議な境遇にいる。

文:境セイキ

Ctrl+Z

 9月11日、朝方の夢。
 富司純子が猪鍋を食べている。富司純子とは寺島しのぶの母であり、かつて東映任侠映画で高倉健と並ぶ看板スターだった藤純子のこと。当時の役どころが緋牡丹お竜。
 山深い小屋の中、緋牡丹(ぼたん)お竜がぼたん鍋。出来の悪い駄洒落のような夢だが、隣に箸でボタンをすくい上げ唖然とする中田カウスが座っていなかっただけ、しつこさがなく救われた。

 思い当たる節はあった。どうしてこんな夢を見たか。
「あ、あ、ぁ、ぁ……」
 迷惑メールみたいなやつを削除するとき、リストの中に「なんだか見覚えのあるような名前があったような……」。もう遅い。
 意を決して。時として、ただ、流れの中でついつい押してしまう〈送信ボタン〉。それなのにやっぱり間違い、書き足りていない箇所があったり。一通のメールで完結する場合とそれが数通に及んでしまうときでは、受け手にとってOBにうつむく石川遼とイーグルに喜び十六文キックを連発するジャイアント馬場ほどの差がある。
 ボタンは怖い。押したが最後、戻れない。帰りたくても帰れない、我が家の灯りがちらついて見えているというのに。まるで誰かさんの人生みたいだ。「あのときの決心はなんだったんだ?」と。

 別の日のこと。ネットの中の探し物は神楽坂にあった。活字では通り過ぎてしまう文字も、手帳の中では踊りだす。神楽坂。なんだか神様たち楽しそうだ。地名の由来や神楽という歌舞のことはともかく、文字を書きつけながらなんだかこちらも楽しい気分になってくる。なにせ日本には頑固者のくせに、ドンチャン騒ぎが気になって、気になって。とうとう重い岩の扉を開いてしまう、なんともおちゃめな神さんまでいる。神さんたちは実に人間臭い。文字に書くと彼らとの距離がグングン縮まっていくのを感じる。
〈Kagurazaka+Enter〉。ボタンでは味わうことのできぬこの世界。ボタンの向こうに神はいない。そんな日の帰りに寄った店にも神さんが。ラベルの中で笑う恵比寿さんの顔を拝みながらビールがいけてしまう。神を「さん」づけで呼び、一緒に酒を飲めるのは日本人ぐらいなんじゃないだろうか。あ、お神酒をもう一本ね。落語ではないけれど、饅頭が怖い。
 ボタンが怖い、ボタンが怖い。

 実は、前夜にはまったく別のことを書いていた。そのほとんどが出来上がった頃、モニターに戻した目には真っ白な画面が。以前にも似たような経験が何度もあり、最近では勝手に保存をしてくれるソフトを使っていたのだけれど。間の悪さというのには容赦がない。いや、起こってほしくないときに申し合わせたように起こってしまうからこそ間が悪いのか。
 こちらもまた誰かさんの人生みたいだ。どうやら、なにかの拍子に変なボタンを押してしまい、直後にオートセーブ機能がはたらき白紙を保存。〈Ctrl+Z〉を何度押しても復旧不能。

♪この世はもうじきおしまいだ♪
 かつて、野坂昭如は『マリリン・モンロー・ノーリターン』のなかで社会を刺し、9月10日夜、僕は、Point of No Returnから布団へ。

 地球の終焉なんてのは意外とそんなことで迎えてしまうのかもしれない。ねぇ、○×さん。


                                       

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