文:松浪健四郎(文部科学副大臣)
体大時代、全日本学生選手権優勝を経て、東ミシガン大学にスカウトされる。その後、NYアスレチッククラブ所属選手となり、全米レスリング優勝。専修大教授から1996年より衆議院議員。
『観光立国推進基本法』なる法律が、12月中旬に成立した。「技術立国」「教育立国」「貿易立国」と呼称してきた日本だが、今度は「観光立国」である。
日本から日本人は、毎年1800万人が外国旅行する。が、外国人が日本を訪れるのは昨年まで年間550万人。今年に入って、中国渡航者のビザ取得を大幅に緩和したがため、一気に訪問者が増加して700万人に達した。
世界的なランキングは、第35位から2、3番上昇したにすぎないけれど、国が本気になって外国人旅行者を増やそうと考えてきたのだ。最も外国人旅行者の多いフランスやイタリアは、歴史的遺産にとどまらず、芸術やファッション、そしてグルメに至るまで、何もかもが魅力的であろう。
では、日本旅行の魅力は一体どこにあるのだろうか。「フジヤマ」「ゲイシャ」の時代ではなくなり、観光スポットを例示するのが難しい。ところが、外国人旅行者は、近年、名だたる観光地よりも工場見学とか、陶芸の里などを訪れたがる傾向にあるという。このことは、どこもかしこも観光地であることを物語る。
そういえば、日本人からすれば、ニューヨーク(NYC)、マンハッタンが魅力的な地であるのは、それなりにすべての場所が観光スポットになっているからにほかならない。初めてダウンタウンのバッファリに行った際、路上で寝ている人の多さに驚いたし、自動車のフロントガラスを新聞紙で拭く仕事にも腰を抜かした。あれもこれも観光なのである。
NYCの知人が教えてくれたが、メトロポリタン歌劇場では、建物の外に大スクリーンをつけたという。劇場で演じられているオペラ「蝶々夫人」を同時中継して、通行中の人たちに見せていると聴いて首をひねった。たぶん、オペラのナマに興味をもたせるための仕掛けなのだろうか。こんな企画力もNYCらしい。人間の思考力の限界をさぐる都市、それがNYCの観光地たる所以かもしれない。
意識せずして観光都市化したNYC、すべてが揃っているのには感心する。日本が法律まで制定して「観光立国」を目指す姿勢は評価できる。日本の旅館が、あまりにも高価で、外国人たちが敬遠せねばならない現実を理解すれば、重い腰を上げて工夫するだろう。
東京だってNYCに負けないくらい魅力をもつ。しかし、東京にはオリジナリティが欠落している。料亭や焼き鳥屋、居酒屋なども外国人旅行者を意識しつつあるが、すでに日本的な一面が喪失していたりする。
秋葉原の電気街も観光スポット、外国人で賑々しくある。中国人や韓国人の旅行者たちと欧米人旅行者のスポットは大きく異なる。すべての旅行者を吸引するスポット作りこそが、「観光立国」の第一歩であろうか。
国土交通省観光部の標語に、「行ってよし、住んでよし」の国づくりとある。私の体験からいえば、NYCは「住んでよし」だった。でも、その理由を語れといわれれば困る・・・。
