
文:ミスターM
笑いの観点から社会を正す謎の男
知人のタカシが交通事故に遭いまして、まぁ大した事故ではないので「先生! タカシの容態は?」「残念ですが…」「そんな、嘘だ! タカシ! タカシィィィ!」みたいなドラマチックな展開にはならないようで二週間で退院だとか。面倒くさいですけど見舞いに行ってやることにしました。
入院先ってのが片田舎の小さな病院で私が訪れた時間はちょうどタカシが診察中だったため、先に病室に入って待つことにしました。
薬品の匂い漂う四人部屋なんですけどタカシの向かいのベッドにいる知らないお婆ちゃんがちょっと凄いんです。私が部屋に入るや否や「まぁ~いらっしゃ~い」ですからね。知り合いレベルで話しかけてくるもんですから小脇に抱えた見舞いのクッキーも思わず渡してしまいかねない勢いです。
本当ならココで私とお婆ちゃんの間に割って入るタカシのフォローがあるはずなんですが、生憎ながら室内には二人きり。痴呆のために私のことを孫か息子と勘違いしているのではと不安に駆られたのですが「よく来たね~、タカシくんのお友達?」とその辺の認識はハッキリしている様子。よかった、このお婆ちゃんボケていない。決して私を親戚と間違えているのではなく初対面の人との接し方を間違えているだけなのです。うむ、よく考えたらやっぱりボケてるような気がします。
無視するのも悪いですし、部屋から出ていくのも変じゃないですか。刺激の少ない入院生活は退屈でしょうからタカシが来るまで話し相手にでもなってやるかなどと思ったら、ここから捲るめくお婆ちゃんの連続攻撃が炸裂します。
まず、飴をいただいたんですけど「はい、ア~ンして」ですからね。手渡しではなくお婆ちゃんの手から私の口へダイレクト。年齢を越えた熱愛カップルか! 口内で飴を転がしながら雑談していると、今度は「煎餅もあるからお食べ」と来ました。遠慮しつつもお婆ちゃんの激しいプッシュは続き、無下に断るわけにもいかないので頂戴することにしました。やっぱりダイレクトで。もちろん口に飴が入ったままで。ありがとう! ありがとうお婆ちゃん! でももうお腹いっぱい!
貰うばかりでは悪い気がしてお礼にジュースの一本でも買ってやろうと提案すると「煎餅があるから要らん」と噛み合わない返答が。なぜ煎餅とジュースの二者択一に迫られているのか分からないんですけど、深く突っ込んだら不思議なラビリンスに迷いこんでしまいそうなのでやめておきました。
こんな不思議なお婆ちゃんと相部屋のタカシでしたが、二週間の入院予定を何故か一週間に切り上げて早々と退院したそうです。きっとラビリンスな理由だと思うので深く突っ込むのはやめておきます。


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