
主な登場人物
矢間下 珍司…大阪府出身。大学生。サッカーと料理無しの人生なんて有り得ないと豪語
獅子戸 貝子…東京都出身。ダンサー。珍司の彼女。大のチーズとマヨネーズ好きで、得意料理は中華丼。
末岡 衆図…東京都出身。ミュージシャン。貝子の幼馴染みでもあり珍司の親友でもある。
達味 琢子…福岡県出身。ダンサー。アネゴ肌で貝子の良き相談相手料理は苦手だが、結構グルメ通
ドッディ…珍司の遊び友達でイタリア・ローマ出身のオットコトコ前君。
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最近夏バテで家に引きこもり気味の珍司は突然貝子に電話で呼び出された。いつもの待ち合わせ場所であるユニオンスクエアに向かうと、貝子が仁王立ちで待っていた。 「なんやねん。突然呼び出して。暑いし体だるいし食欲ないし最悪や。もう帰りたいわ。」 「ちょっと、今来たばっかりで何言ってるのよ!体調の悪い珍司に私の行きつけのレストランの料理で元気になってもらおうと思ったのに。食べ物がおいしいのはもちろん、マクロバイオティックに忠実な自然食レストランで健康な人もそうでない人にもぜったいオススメなんだから。」 「マクロバイオティック???」 「さ、もたもたしないで行くわよ。」 珍司の疑問など無視して足早に歩く貝子。その貝子に追いつこうと短い足で必死に歩く珍司はふと目の前に現れたたくさんの草花に目が止まった。 「わー、ここの店いい感じやな、店先にこんなに緑があって。お客さんだけじゃなくこの前を歩く通行人も癒されるわ。」 「ここなのよ、あたしのお気に入りのレストラン、SOUEN。店内のWoodを基調とした内装はもちろん素敵だけど、いたる所に植物や花があってオシャレでしょ。」 「そやなー。それに店員さんもここにいるお客さんもみんな生き生きとしてるわ。俺も急にお腹がすいてきたわ。早くメシー!」 さっきまでグズグズ言ってたのにこれだから男って単純ね、とすごい勢いでオーダーをする珍司を見ながら貝子は心の中で笑った。 「どうせマクロバイオティックの事を知らないだろうから教えてあげるけど、季節のものやその土地で採れる旬の素を食べる「身土不二」、玄米や精製しない小麦粉、ひげ根や皮のついた野菜など素材を生かしそのまま食べる「一物全体」、食べ物だけでなく物質なども陰と陽で分類し、それらをバランスよく摂取する「陰陽の調和」などの理念を持った食養生法なのよ。」 「ぶつぶつ言ってないで飲めよ、このオーガニックワインと湯葉は絶妙だな。」 「ちょっと人の話ちゃんと聞いてんの?!あら、このキャロット赤カブジュースも野菜本来の甘味が出てておいしいわ。最近はどの食品にも保存料や添加物などが入っていて、このSOUENの料理の様にオーガニックの素材に徹底的にこだわって、砂糖、化学調味料、保存料、乳製品などを一切使わない調理方法はほんとに贅沢で貴重なんだから。」 「このでっかいロール、食べ応えあるなあ。外側のアボカド、中のごぼう、ニンジン、ほうれん草と玄米の絶妙な組み合わせ。ボリュームがあってもさっぱりしてるから、いくつでもいけるわ。」 貝子のことなど忘れたかのように一心にロール69を食べつづける珍司である。そんな珍司との会話をあきらめたかのように貝子はチリアンシーバスの皿へ手を伸ばした。 「おい、貝子。なんや?そのうまそうな魚は?でっかい切り身が3切れものってるで。お前、まさかそれ一人で食べるつもりちゃうやろな。」 「あら、人の話も聞かないで食べ物に夢中になってる人にこれは渡せないわ。これはチリアンシーバス。お魚の身と下に添えられた鮮やかな色のとっても甘いヤム、そしてあげレンコンとちょっと酸味のあるのさっぱりソースを絡めて食べるとほんとに幸せな気分になれるんだから。」 「色どりといい盛り付けといいほんまにうまそうやなー。おい、貝子、愛してるから半分分けてくれよ。その付け合わせのオーガニックみそを使ったスープだけでもいいからさあ。そのスープだけで俺玄米3杯はいけるぞ。」 「だめよ、3杯も食べちゃ。大食いだけどなかなかのグルメでそしてなにより派手好きの珍司にもってこいのお料理をもう一品頼んでおいたんだから!あ、来た来た。」 珍司はそういう貝子の目線の先を追うと、それは高さ15センチはあろうかという色とりどりの魚、野菜が並ぶちらし寿司であった。 「料理は見た目も大事っていうけど、見た目で言ったらこれは最高やなー。ほんま気分がパーっと明るくなるわ。」 「何いってんの。見た目だけじゃないのがこのお店の料理なんだから。さ、早く食べないとあたしがぜーんぶ食べちゃうわよ!」 「おいおい、お前これ以上デブったらあかんで。このちらしは俺に任せて、お前はだまって見とけ。」 「失礼ね。このちらし寿司は4種類のお魚にそして10種類以上の野菜を使ったものだから、とってもヘルシーなの。見て、このケールっていう野菜、あの「苦いー、もう一杯!」のCMでお馴染みの青汁に使われている野菜なのよ。ほんとに美容と健康にいいんだから。」 「あの青汁に使われてる?嘘やん?全然苦くないやん。」 「すいません、デザートお願いしまーす!」 おいおい、まだ食べるのかよ、体調が悪かった自分は調子がよくなり、もともと体調がいい人は絶好調になる店だな、と珍司は思った。 「ねえねえ、このオレンジバニラプディングにもラズベリーの豆腐パイにも砂糖が一切使われてないって信じられないよねー。この上品な甘さ、一体なんなんだろう???」 「あほやな、お前、そんなことも知らないで。それは玄米から作るライスシロップだよ。だから体にもいいし、特にお前みたいなダイエットしたいけど甘いもの食べたい、なんていう人に人気なんだよ。これなんか、何も知らんかったら上品なチーズケーキやで。ちなみにこのカプチーノは豆乳入り、知ってた?」 「知ったかぶっちゃって、私がトイレ行ってる間に、あのかわいい店員さんに質問してるの見てたんだから。ここの料理はどれもほんとに人間の体のことを大事にしている料理なのね。なんでもお金で買えてなんでも手に入る時代なのに珍司も世間の人も自分の体はケアしないのね。ビールにスナック、夜更かしもいいけど、たまにはこんな料理で体にご褒美与えないとね。そしてあたしにも!」 たまにはいいこと言うな、と感心しかけたとたん結局オチはいつものおねだりか、とあきれ気味の珍司もほどよい満腹感で幸せに浸るのであった。 |
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