
文:ひろや
「同じ失敗は繰り返さない」をモットーにしているにも関わらず、ニワトリ並みの記憶力で都合の悪い事はどんどん忘れていってしまう。進歩が無い人類世紀最後のダメン。
前編のあらすじ
札幌で無一文になってしまった俺と元野球少年のSは、ふとしたことから怖面のおっさんに拾ってもらうことに。そして滞在先として連れてこられたのは、彼の愛人宅。そこでしばらくの間お世話になることになったのだが・・・。
山手線を始め都内の電車内はもちろん、交番で寝たり、新宿で浮浪者と段ボールで一緒に寝たり・・・。どんなシチュエーションでも熟睡してきたサバイバーな俺だが、今日はさすがに寝付きが悪い。いくらベッドがフカフカでも、今日知り合ったばかりのヤクザのおっさんの愛人宅・・・。怖い人に囲まれて、ない金を無理矢理搾り取られるか、はたまたどこかに鉄砲玉として送り込まれるか・・・。とは思っても、俺達には他に行く当てがない。外はすごい勢いの吹雪・・・。このままここで寝るのには身の危険を感じるが、外で寝たら命の危険がある。おっさんが良い人であることを祈り、ステイする覚悟を決める。
おっちゃんの愛人に手を出して追い込みをかけられるという身も蓋もない悪夢を見てうなされていた俺が、ハッと目を覚ますと・・・。
「おー、やっと起きたか。」
隣の部屋で、Sとおっさんとが楽しそうに朝食を食べている。Sとおっさんは趣味の野球話で意気投合、既に「おっちゃん」、「猿」とお互いをあだ名で呼び合う仲にまで進展していた。昨夜の心配が杞憂に終わり安堵する俺。たまに、ちらっと見えるおっちゃんの人体アート(入れ墨)が気にならないかと言えば嘘になるが、どうやら身ぐるみ剥がされたり、どこかに売り飛ばされたりって心配はないようだ。
雪掻きをしたり観光したりしているうちにあっという間に夜になり、俺達は、ディナーに向かう。俺とSが新鮮な魚貝の幸に舌鼓を打っている横でひたすら日本酒を飲んでいたおっちゃんと愛人のK子は、食事が終わった頃にはすでにぐでんぐでん。
「おい、猿!酒をもてー」と気分は殿様。
豪華な食事にお腹も一杯。眠くなってきた俺達とは対照的に、おっちゃんのテンションは上がりっぱなし。
「おい、ちょっとお前らつきあえ!」
と、俺達がつれてこられたのは、ピンクのバラ電飾でビル全体がラッピングされた、存在自体が淫らなビル。テナントリストには、スナック、キャバレー、クラブ・・・、そんなお店ばかりが名を連ねる。
「松・竹・梅どれがいい?」
と突然おっちゃんに聞かれた俺達が、質問の意味も分からず出した「全部」という回答の結果・・・、伝説のススキノツアーが幕を開けた。
「ミルク」を注文して大笑いされて萎縮してしまった俺と、その横で愛人のK子を無視して他の女の子を口説くおっちゃんの気合いトークが対照的だった銀座っぽい高級クラブ(松)でスタート。ネクタイを額に巻いて尾崎豊を熱唱するおっちゃんの姿が印象的だった二件目のキャバクラ(竹)を通過し、5時間後・・・。ついに最後の地へ・・・。
ここまで、経験値の無さ(お水初体験)がもろに出て、乗り遅れた感が否めなかった俺達も、一件目、二件目とまわるうちに段々と日本人お水お姉ちゃんの傾向と対策が飲み込めてきた。なんとか挽回しようと気合いを入れた俺達だったが、入店するやいなや出鼻をくじかれる。
「しゃちょさーん、いらっしゃーーーい。」
お笑い番組でしか聞かないような訛りの日本語で俺の隣に座ったのは、褐色の肌をした青い目のサユリさん(本名キャシーちゃん)。日本人の対策は練っていたものの、まさか外国人さんとは・・・。
「はじーめまして、わたしサユーリちゃんでーす」
と名乗った彼女だが、二言目には
「キャシー、日本人じゃない、だから日本語むつかちいねー」
と本名を明かす・・・。なんて早業!
この素早いジャブに続いて放たれたのは閃光の右ストレート!
「しゃーちょさん、お小遣いちょーだい!」
まだ会って1分と経たないのに、お金をせがまれるとは・・・。さすがは「梅」(=フィリピンパブ)!
主導権をサユリさん(=キャシーちゃん)に握られたまま宴は進み・・・。
「しゃちょさん、みずわりたべますかー?」
との質問に、返答に困る俺。アレルギーでお酒が飲めなかった俺は、それまで「トマトジュースかミルク、飲んでもビールまで!」がモットーだったので、お酒のことはよく知らず。水割りが何かさえよく分かっていなかった・・・。一応「水割り=酒を水で割った物」という認識はあったものの、「たべますかー」と言うぐらいだから「俺の知らないフィリピンパブ特有の食べ物か・・・」と思考を巡らせた末にOKするが・・・。そんな予想はもちろん裏切られ、勢いよく目の前に出されるグラス。しかも、水割りのはずが、おとぼけキャシーは水で割る事をど忘れしている。普通にウィスキーがロックで登場!
飲まないで誤魔化そうとしていた俺に、ノリノリのキャシーから素敵な提案が・・・。
「じゃんけんする。しゃちょさん勝つ、きゃしーぬぐ。きゃしー勝つ、しゃちょさんいっき。お酒なくなる。ボトルでる。キャシーもうかる!」
笑顔で説明ありがとう・・・。
もちろんアルコールアレルギーの俺は即座に拒絶したのだが、そんなことはうちのエースが黙っちゃいない。酔っぱらって「アイアムオッパーイ」と叫びながら乳を揉んでいたおっちゃんが、ここでついに本領発揮。
「おい、こら!キャシーの酒が飲めね~のか、お前は!」
頭にネクタイを巻いて「郷ひろみ」の「ゴールドフィンガー99」を熱唱しながら凄みをきかすヤクザ相手に「No」と言えるほど俺は強くない・・・。
10分後には、トイレでブラジャー姿のキャシーちゃんに背中をさすってもらう俺の姿が・・・。
飲んでは吐いてを繰り返し、迫り来るキャシーの求婚をなんとかかわし、店を脱出したのはお昼過ぎ・・・。「日本人もよく働くけど、外国人もがんばるな~」とフィリピンパブのお姉ちゃんの労働意欲に感心した俺は、その後キャシーに会いに毎晩お店へ足を運ぶことに・・・。札幌滞在中、店が休みの日以外、無欠勤で通った俺の英語はいまだにフィリピン訛りが抜けない・・・。
帰京後、キャシーを忘れるために今度は九州まで傷心旅行をするのだが、その時の武勇伝はまた別の機会に・・・。
教訓「気を付けよう、夜のネオンとフィリピンパブ」

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