
文:ひろや
「同じ失敗は繰り返さない」をモットーにしているにも関わらず、ニワトリ並みの記憶力で都合の悪い事はどんどん忘れていってしまう。進歩が無い人類世紀最後のダメン。
顔は完全に日本人なのに、日本語は全く喋れない。英名「マイケル」、本名「太郎」というベタベタな名前を持つメキシコ人と日本人とのハーフの男性と、ひょんなことから仲良くなったのは4年程前のことだろうか。当時英語が全く話せなかった俺とは言葉も通じないし、外見も性格もまるで異なる彼。特に共通点もないように思えたが、なぜかお互い親近感を覚えて意気投合した俺達は、それ以後頻繁に飲みに行くようになっていった。
見た目はさえない太郎。普段は物静かな太郎・・・。だが、そんな彼のもう一つの顔を俺はすぐ知ることになる。
ある日、渋谷にあるクラブのバーで一緒に飲んでいると、突如彼の眼が異様に輝き出す。冴えないはずの太郎が、いつの間にか妙なオーラまで醸し出しているではないか。並大抵の人間では出せないその膨大なオーラの量に、俺は鳥肌が立った。
何か怒っているのかと思い、「どうしたんだ?」と心配する俺の問いには耳も傾けず、ひたすら一点を見つめる太郎。そして彼の視線の先には・・・、ゴージャスな装いをしたトップクラスのいい女の姿が。
「しー いず わんだふる♡」
普段の彼からは想像もできない手慣れた様子で早速声を掛けに行くが、どう考えても太郎では全く釣り合いがとれていない。その女性はモデルか芸能人ではないかというぐらいのレベル。いくら太郎が眼をぎらつかせてみても、所詮はケミカルウォッシュのジーンズに身を包んだずんぐりむっくり・・・。スペックが違いすぎる。
しばらくして心配になり様子を見にいくと、予想通り聞こえてくる女性の怒りの声。
「なにこのバカガイコクジン。超うざいんだけど!」
俺はバーに戻り、すぐに落ち込んで帰ってくるであろう太郎を慰めようと、彼の大好きなテキーラを用意して、待つこと5分。なかなか戻って来ない太郎が心配になって、再度様子を伺いに行く・・・。
!!!
つい5分前には「バカガイコクジン」とまで言われて全く相手にされていなかった太郎が・・・。この5分の間に何が起きたのだろう。どういう訳か先ほどの女性と抱き合って濃厚なキスを交わしているではないか・・・。
おそらく俺は酔っぱらって夢でも見ているに違いない。とりあえずバーに戻り、太郎にあげる予定だったテキーラを一気に飲み干す。このテキーラの喉に突き刺さる熱い感じ・・・、どうやら夢じゃなさそうだ。そうこうしているうちに、太郎が先ほどの女性の肩を抱きながら戻ってきて、俺にわかる英語で一言。
「ていくあうと」
そのまま夜の街へ姿を消す。まさかの展開に声も出ない俺。
どんな黒魔術を使ったのだろう?それ以外にあり得ない。それとも実は、彼は凄腕のナンパ師だったのか・・・。とてもそうは見えないが、最初に妙に親近感を覚えたのは、俺と同じ種類の人間だからだったからなのか。
数日後、太郎と再び飲みに行った俺は先日の話を根掘り葉掘り問いただす。すると、「男は押しと真心だよ。」と英語で無愛想に言い放ち、彼の女性遍歴を淡々と語り出す。今までは太郎がこんなキャラだと思っていなかったので、俺たちの会話に女の話は全くでてこなかったのだが、実は数々の女性を口説き落とし幾多ものホームラン記録を打ち立ててきた名スラッガーであることが判明。普段はおとなしい彼だが、いい女を見つけると世界でも有数の打者に変身するのだ。変身というより豹変と言った方が正しいかもしれないが・・・。
下心!ついに二人に共通するキーワードを発見した俺たちは、それから毎日のように連れ歩くようになる。二人で、どちらが早くいい女を口説けるか。お互いの腕を競い、高めあう。まさに、良き友であり、良きライバルになった俺達。
そして、太郎が酔っぱらってふと漏らした一言が俺の運命を変えることになる。
「ひろや、お前は確かに凄いバッターだ!だが、所詮それはこの小さな島国の中での話に過ぎない。巨人の4番で、満足するのか?メジャーに行って来い!世界を見てこい!」
正確にこんな事を言ったのかどうかは俺の英語力ではわからんが、ライバルでもあり、師でもある太郎の言葉は俺に大きな衝撃を与えた。確かに、俺は今まで日本人投手としか対戦したことはない。俺の力が世界に通じるか試してみたい・・・。この時、俺の心の片隅に、後々の俺の人生を大きく左右する、「メジャー志向」という考え方が芽生えたのだった。
次の夜、俺は早速、六本木の有名なクラブへと足を運ぶ。いつも渋谷、新宿で遊ぶことの多い俺にとってはアウェーなのだが、毎夜「日米対抗野球」が繰り広げられているという噂を聞いては確かめないわけにはいかないだろう。
店内に足を踏み入れると、確かに噂通り外国人ばかり。
「日本人の女はワールドクラスだが、男のレベルはまだまだマイナー以下だぞ」との太郎の言葉通り、最初は全く誰からも相手にされない。雰囲気に飲まれない様に、とりあえずお酒を飲んで、徐々に体を温めていく。
すると、夜も2時を過ぎた頃には、エンジン全開。喋れない英語全開。意外にフレンドリーな外国人さん達は俺を仲間の和に入れてくれる。それにしてもさすがはメジャー!大きな胸をブンブン振り回しながらブラジャー姿で踊っている女性までいるではないか。
俺だって夜の日本球界では、それなりに名を馳せたプレーヤー!ここで臆するわけにはいかない!ブラジャー姿の女性、キャサリンに狙いを定め、グラスを交わしながら拙い英語で口説いてみる。
「ゆー あー びゅーてぃふる。あい らぶ ゆーー!」
出てくる英語はこんなもんだが、もうキャサリンはベロベロ。ここぞとばかりに直球勝負!
「れっつ せっくす!」
すると、キャサリンは何も言わず俺の手を取り、トイレへ向かう・・・。
テイクアウトのつもりが、まさかのステイ?日本人相手ではありえない急展開、口説きのテクニックがどうこうという問題ではない。驚きながらも、俺もメジャーで通用することが分かり、嬉しくなってそのまま展開に身を任せてみる。
トイレに入り、イチャイチャし始めると、彼女は大きな声で「おーいぇー!おーいぇー!」と叫びだす。メジャーの迫力に圧倒されながらも俺も負けじと「おーいぇー?おーいぇー?」と返す!
ガリッ!!!
痛っ!!!
突如、音が聞こえるぐらいの激しさで俺の首筋に噛みつくキャサリン。
痛い!痛いなんてもんじゃない。こいつは、犬か、吸血鬼か・・・。これがメジャーの洗礼か!悲鳴を上げる俺を見てなぜか更に興奮したキャサリンは俺の肉を・・・食いちぎる。
まっ、まじっすか・・・!?おしっこをちびりそうになりながら、這々の体で逃げ出す俺。あまりの出血にそのまま病院直行。全治3週間・・・。俺のメジャーデビュー戦は、手痛い洗礼を受けて負傷退場で幕を閉じた。
それでもメジャーへの夢を捨てきれずに、単身渡米したアホな俺・・・。同じ時期に渡米したゴジラ松井の活躍とは対照的に、3年にわたる長期スランプの中、ホームランどころか依然ノーヒットのまま・・・。所属するエロヤンキースを解雇されそうになっているのだが、それはまた別の機会に。
教訓 「井の中の蛙大海を知らず」

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